◆しょうぶ酒 (門入) |
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むかし或る家に娘が居った。
そうしたらその娘に、ある夜から、それは上品な若侍が通って来はじめた。
母親がこれを見るに、こういう山ン中の娘のところに通うにしては、いかにも品良う美しすぎる。これはどうも唯者ではないと思って、それである夜娘にそう言って、その若侍の袖のつけねに、長い糸を通した針を三針縫いこませた。
そうして若侍が表に出ると、後に引きずる糸をたよりに、母親があとをつけた。
つけて行くと、糸はずうっと村下に向かって、しばらく村を出はずれた、会所というとこにある池の中に入って、消えとった。
やれ、これは思った通り唯者では無かった。やっぱし、魔性の者やったと、母親は池の端でがたがたふるいだし、えらい弱ったことになった。大事な娘にこうした者がついてまって、いったいどうしたらよかろうやと思案しとると、どうしたものか、急に池ん中から病んで痛がる声がしだいた。
ほうしてそのわきから、女の声で、
「・・・・・・それで私が、ああした人間の娘なんぞに想いを懸けるものやない、通いかけるものやないって言うだではないか。それを言うたがいにせんから、こういうことになる。縫い針の毒は、蛇身に入ったら、まあぬけん、そこんとこから腐って、おまいは死ぬだけや。おまいが死んだら、この池の主はいったいどうなるのや」
と、泣きくどくのが聞こえた。
ははん、さては娘に縫いこませた針の先が、何かのひょうしに、脇の肉にでも刺さったのやな、それならこれで安心かも知れんと思っておると、今度はあの若侍の声で、
「いやおっ母さん、主のことなら心配せんでええ。前から、あの娘の体には、わたしの種が宿っておるのや。間も無うあれが生まれて、主の跡もしっかり継いでくれるし、おっ母さんの面倒も見るやろう・・・」
そう言うのが聞こえた。
ところがまたそれにこたえて言うには、
「なあに、其のくらいのことでは安心ならんぞ。人間というものは、なかなか利巧なもんやから、そういう蛇身を身ごもった時には、五月の節句に、しょうぶ酒をかもして飲むと、その種が白濁りになっておりてしまう位のことは、とうに知っとるのや・・・」
娘の母親は、これを聞いて、とびあがってよろこんで、家に走ってもどった。
ほうして家の者にわけをよう話いて、さて五月の五日、あの池の蛇が言ったようにしょうぶ酒を造って娘に飲まいた。
ほうしると娘のからだからは、白濁りのおりものが、七たらい半出て、あとは無事やったと言う。
この時から、五月の節句には、男も女も、体の魔性を払うと言って、かならず、しょうぶ酒を造って飲むがいになったという話や.
編集発行は徳山小学校 昭和45年の発行
門入は徳山村の地域の名前です
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