◆ ベロリ穴 (山手) |
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磯谷の奥に、磯倉ってとこがあるが、そこの倉もとに、深い岩の洞が有る。
斜めに底へ降りとって、人がかがんで入れるくらいのいかさで、足もとは砂利になっとる。
むかし山手の猟師が、櫨原へ年頭に出かけて、磯谷口にかかったとこが、そこにいかい熊の足跡があった。年頭を先にへしようかどうしようかと迷ったが、そうじゃ、ほんのそこまで、見るだけでもみといたれと思って、ついづい磯倉までつけていくと、それがこの洞穴ん中へ入っとった。
はは、この中か、こいつはうまいと思って、猟師がそん中をのぞいてみると、暗てようわからんが、どうも、さっきのやつらしい熊がどってと寝とり、その奥にまた、白い動くものがぼやっと見える。
ふしぎじゃなぁ、なんじゃいなと思うしなに猟師がじっと見とった時や、その白いものが、ずいずいっつと目の前に来て、猟師はびっくりついて腰を抜かいた。
むりもない。
それは今まで見たこともない、白い毛の熊やった。
そうしてそのクマが腰をぬかいた猟師に言うには
「命も助けてやる。それからおまいの見つけたこの熊もくれてやる。そのかわり、この穴に俺が居ったことは、村の者にもだれにも、かならず言うな、言うとその場で命はないど。これをかつんて、早う行け」
それでその猟師は、白熊に得た熊をかつんで、後も見ばこそ、磯谷を半分走り半分すべって村におり着いた。
ところがそれからというもの、猟師の胸には、その白熊のことがしみついてまって、それがまた業なことに、そのことを、他人に話いてみとて、どもならん。
話そうか、いや、話すと殺される。そうかってこのまま胸にかくいとくのも、なかなかのしんぼうじゃ。
どうじゃ、話すと、ほんとうに殺されるのじゃろうか。
いったいあれは、何じゃろう。
こがいなふうに思いわずらっとった。
そうしたら、その猟師の頭の毛が、日に日にはげてきて、それでついづい、ペロリはげに、はげてまった。
猟師が、しまいには、まあ辛抱できんようになってまって、よっしゃ、どうなってもええわいと思うしなに、その時来とった隣の者へ向いて・・・
おれがなぁ磯ん谷口の・・・と言わんと思い
「イソ・・・」と言いかけたら、直っきに猟師の後ろへその白熊が出て、その猟師を股からまふたつに裂いて投げたということやが、それからこの穴を。べロり穴 というようになったということじゃ。
編集発行は徳山小学校 昭和45年の発行
山手は徳山村の地域の名前です
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